ボイス 受講生の声
VOICE vol.66
小島 一郎 Ichiro Kojima 2010年中村教室入学 / プレゼミナール初級コース在籍

---こんにちは。早速なんですが、小島さんは東北関東大震災の1週間後に被災地に入ったそうですね。なかなか入るのが難しかったと思うんですが、どういう経緯だったんですか?

 

今は一般の車両も通行が許可になっているけど、地震発生の直後は東北道が通行止めだったので、まずはどうやって入ろうかと考えてたんです。そうしたらちょうど神田にあるNPO団体が、集めた救援物資を自腹で現地まで届けられる人を募集してるって知人に教えてもらって。そこで問い合わせたら通行証が出せるということで。ただし預かった物資を指定された場所に届けるという条件が当たり前だけどあって、僕は仙台の隣の多賀城市の役所に行くことになったんです。ただ役所もガソリンがなくて物資を避難所に配る手段がないので、そこでまたどの避難所に届ければいいのかを聞いて、直接そこまで届けるというシステムだったんです。

 

---なるほど。そうですよね・・・ガソリン、ぜんぜんないみたいですもんね。

 

それで物資を指示された何箇所かの避難所に届け終わったんですが、まだ2、3日はいられるからその日は仙台のホテルに泊まったんです。ただホテルも1割ぐらいしか営業してないからなかなか泊まれるところがないんですよ。でも「暖房とお風呂が壊れてるけどそれでも良ければ」って言ってくれたホテルがあって、そこに泊めてもらいました。

 

---きっと営業できることすら奇跡みたいな・・・。そこからあちこちまわったんですか?

 

はい。多賀城で救援物資を下ろして、新しい荷物を積むスペースができたから、改めて仙台市内で物資を買い足して、もっと被害がひどくて物資が届かないでいるところへ行こうと。石巻からずっと海沿いを北へ走り、小さい漁村なんかをまわって物資を届けながら、被害のひどかった女川や雄勝まで行ったんです。そこから北上川を渡ろうと思ったんだけど、橋が壊れていて渡れなかった。仕方ないから戻りつつ、物資も減ってきたところで焚き火が見えて。きっと人がいる!と思って物資を届けに行ったんです。

 

---避難してた方がいたんですね。よかった!

 

そう、おじさんたちがいて、こういうわけで物資を持ってきたんですって話したら、もうそんなに数もないのにすごく喜んでくれて。そうしたら「これからどうするんだ?」と聞かれて、テントを張るか車で寝ようかと思うと話したら「危ないからここに泊まっていきなよ」って言うんですよ。暗い道を通ると、瓦礫の釘を踏んでタイヤがパンクするぞって。

 

---被災してるのに・・・やさしい・・・。

 

すごい優しいの。援助に行ってるのに泊まるわけには・・・って言ったんだけど、「いいんだ、いいんだ。布団が余ってるから、泊まっていけよ」と。そこは雄勝の明神っていう集落で、津波で65軒中5軒しか残らなかったんですけど、その残った住宅に家の持ち主に関係なく、女性やお年寄りや子供たちが寝泊りしていて、元気な男性陣は半分壊れた避難所に泊まっているんです。ガスも水道もないから、壊れた家の木材を利用してごはんを作ったり、暖をとったりしてるんです。そんな状況なのに「寒いからこっち来なよ」って呼んでくれたり、「酒、やる?拾ってきたのがいっぱいあるよ。」とか。救助に行ったのに、酒盛りになっちゃって(笑)。さらに釣り雑誌の仕事をしてたって言ったら「壊れた養殖場から逃げた鮭が釣れるから、明日の朝釣りやろう!」って。結局、次の朝、拾ってきた道具で釣りまでやっちゃって、しかも僕ほんとうに一匹釣っちゃって、記念撮影までして(笑)。

 

---明るいなぁ(笑)。たくましいなぁ・・・!

 

そうなんですよ。でもね、さすがにこれじゃいかんなと思って。こっちが必要だろうと思って持っていくものと、被災地の方が本当に必要としているものに結構ギャップがあるんで、「本当に今必要なものを教えてください」って聞いてきたのを、今週末に再び届けに行くんですよ。

 

---でも、あったかいですね。これが東京だったら、わたしたちは同じように振舞えるのかなと、テレビを見ててもいつも思う。

 

東京だったらヤバイかもしれないですね。

 

---そうですよね・・・。今、水の買占めとかも起きてるし、いろんな情報でパニックになっているのを見るとそう感じてしまいます。実際に目にしたわけじゃなくて報道だけでしかわかりませんけど、東北の方たちは譲り合い、助け合いがすごく見えるんですよね。

 

本当にそう。被災地の方たちはみんな困ってると思うんだけど「好きなもの持っていってください」って言っても、「うちはまだ大丈夫。向こうにもっと困っている人がいるから、行けるならそっちに持っていってあげて」って言うんですよ。

 

---それ、すごいことですよね。今まさに極限の状態にあって、その言葉が出るって・・・。すごい。本当に。

 

なんかね、こっちが逆に励まされてるっていうか、勉強させてもらっていますって感じなんですよ。なのに被災地から帰ってきたら、東京で買占めが始まっていて・・・情けなくなりました。

 

---本当に・・・。申し訳なく思います。こういう東京での報道を、被災地の方に見てほしくないなぁと思います。被害の状況を実際に目にしてどうでしたか?わたしはテレビで見るだけで、冷や汗が出るというか、本当にこれが日本なのか?という信じられない思いで見ていたんですが・・・。

 

僕も同じでした。テレビを見ていて怖くなりました。でも同時に「行かなくちゃ」と。援助とかって偉そうなこと言ってますけど、行こうと思った動機の半分は「見たい」と思ったからなんです。

 

---わたしもそう思ってました!今回って東京もかなり揺れて停電や帰宅難民とかあったりして、余計に今までと違って「被災」ってことに自分が近く感じたんです。もっと何とかしなきゃいけないって気持ちが強いんですよ。少々「今までより」は不便になっているけど普通に生活ができる中で、これは一度、現実に何が起きているのか「見ておかなくてはいけない」って・・・。

 

そう、同じです。最初テレビで見た時はやっぱり怖いと思ったけど、だんだん怖いけど行ってみたいという気持ちになって。その中にはもちろん何か自分もできることをしたいという気持ちが確かにあったし、それと同時に自分の目で確かめたいという気持ち・・・ただ、そこへ行って自分がメンタル的に大丈夫かなっていう怖さもやっぱりありましたよね。

 

---そうですよね。怖い。怖いと思います。実際に見てそれはどんな光景だったんでしょう?

 

ひとことで言えば、戦争で爆撃されたところってこういう感じなのかな・・・と。原始の風景に戻ってしまったような。4階建てのビルが底からひっくり返っていたり、5階建てのビルの屋上に海から来たゴミが引っかかっていたり、津波で流された車を自衛隊がとりあえず道の両側に寄せているんですが、そのドロドロでペシャンコになった車が1000台ぐらいずっと連なっていたり、30mぐらいの船が街の中に突っ込んでいたりとか・・・。

 

---そんな感じなんですか・・・。ひどい・・・。今報道は仕方ないのかもしれないけど原発のことが中心で被災地のことを伝えるニュースが少なくなってしまって、今どんな状況なのか分かりづらくなってますよね。しょうがないんでしょうが・・・。

 

そうそう。原発のことは確かに1年先、何年先かに癌になるかもしれない、そういう怖さはあるけど、被災地にいる人たちは「明日どうしよう」っていうことに直面してる。それでもたくましく、助け合って一生懸命生きようとしているんですよね。その人たちのことを考えると、ちょっと・・・って思っちゃうんですよね。

 

---わたしいつも原発の報道で東京がパニックになってるのを見て「被災地の人たちの方が原発に近いのになぁ・・・」って思うんですよ。しかも水だって限られていて、お風呂にだって入れない。汚染されていても使わざるを得ない。逃げられない。それをこっちが混乱しているのを見ると、情けないなって・・・。きちんと個々が本当に危ないのか、どうなのかということを、こういう情報社会だからなおさら整理して受け止めなくてはならないと思うんですよね。そして本当に必要な人に必要なものが届くようになってほしいです。

 

本当にそうです。ひとつひとつの情報に踊らされてはいけないと思います。情報が多すぎて、デマなんかもありますからね。そういうのを全て真に受けてパニックになってしまってはいけないんですよ。そういうのはホント情けない・・・ガッカリしますよね。人間って他人との繋がりで生きていくものだから、その関係が強いところは危機に直面しても強いですよ。それに対して、学校の体育館みたいな大きな場所に知らない人同士で集められた避難所は、なんというか、辛さを分かち合える人間関係があるのかどうか、それが心配になります。

 

---わたしも教室にいる時にあの地震が起きて、学生がいたから、まぁ責任もあるからですけど、みんながいてくれたからパニックにならないですんだのかもって思う。やっぱりひとりじゃ生きていけないんだな・・・って。

 

そう、ひとりじゃ生きていけない。中村教室は普段からクラスメイト同士にも弾んだコミュニケーションがあって、そういう繋がりがちゃんとできてますよね。

 

---そうですね。そういう教室になれて本当によかったと思ってます。それにしても被災地の方たちの優しさには頭が下がるばかりです。勉強させていただいてます。こういうこと忘れないようにしなくちゃと思ってます。だからこそ、小島さんの写真を早く見たいです。写真は残りますから。

 

本当に優しい。そうやって人と接するたびに、「ああ、この人を撮りたい」って思うんです。反対に道でどれだけたくさんの人とすれ違っても、そういうのを盗み撮りみたいに撮りたいとは思わないんですよ。

 

---やっぱり短い時間でもコミュニケーションをとって関係が築けた相手に対しては興味がわきますよね。ただすれ違う人に対しては、強烈な風貌だったら別だけど、そこまで興味を持たないですよね。たぶん持ったとしても、それはその人の外見に惹かれているんだと思うし。

 

そうそうそう!そういうことって中村教室に入学して整理できたことなんですよね。例えば理屈では解らないんだけどなんとなく何回も見ちゃう写真がある、でもキレイな女の人の写真見て「かわいいじゃん」って思うけど、何回も見ない。こういうことはぼんやりとは分かるんだけど、これがどういうことなのかは言葉でちゃんと整理して誰も教えてくれなかった。それを教えてくれるところが、中村教室のすごいとこだと思うんですよね。

 

---そういうことって言葉にするのは難しいですからね・・・。そうすると小島さん、写真歴は長いんですか?

 

いや全然。雑誌の編集を10年やっていたので、写真は仕事の材料として接してたんですよね。小さい出版社だったから編集者も撮らなきゃならないことが多いんだけど、僕の撮った写真はどれもこれも全然良くないし。だからむしろ苦痛でした(笑)。でもその仕事を辞めて気づいたら写真が遠くなっちゃってて、そうしたら何だか写真のことが気になり始めて。それでカメラを買って撮ってはみたけど上手く撮れないし・・・。人にほらって見せられるぐらいの写真撮れたらおもしろいだろうなって中村教室に来たんですよ。ただこんなふうなことを勉強するとは思ってなかったけど(笑)。

 

---すみません・・・(笑)。

 

いえいえ(笑)。でも来てみたら中村先生のいう言葉がドキッとすることばかりで。例えば「どこかで刷り込まれたような美意識で撮るな」って先生言いますよね。自分独自のおもしろさを発見して表現することが大切なんだとか。それって自分が雑誌の編集長をやっていた時に編集部の人たちに「誰でも書くような、どこかで見たような文章を書くな。他の雑誌から借りてきたような言葉を使うな。自分の言葉で書け。」っていつも言ってたんですよ。本を作りながら、読み手を惹きつける文章ってなんだろうってよく考えていたんです。で、その頃、明解な言葉で上手に説明できなかったことが、先生の言葉を聞いていると「そうだ、そうだ。」と次々とクリアーになっていったんですよね。それでドキッとしたんですよね~。

 

---表現行為はそのツールが何であれ、根本は共通してますもんね。写真も文章も絵も彫刻だって。

 

ホント、そうなんですよね。それと・・・僕は最初から人の写真が撮りたいなって思ってたんですよ。

 

---そうなんですか?やっぱり人に興味があるんですね。

 

そうです。昔から写真集を見たりするのは好きで、その頃からちょっと盗み撮りしたみたいな人物写真にはあまり惹かれるものがなかったんです。それが何でなのか?っていうのは分からなかったんですが。でも先生の「撮られた相手が見てる、撮った人間が写真の中に写ってるんだ」って言葉を聞いたときに「それだ!!!」と思って。そうかぁ~と。「撮られる側と撮る側の関係性が写る」って授業で言ってたけど、こういうことなのかと。それからもう、人の写真が撮りたくて、撮りたくて仕方なくなって。

 

---最初はやっぱりわからないですよね。人物はやっぱり難しい。

 

やっぱり人間が笑ってる顔って魅力的じゃないですか。だから始めはそういう表情の写真を撮って授業に持っていってたんです。そうしたら「表情が動きすぎだ」って言われて。その意味が分からなかったんだけど「撮れば解る。いっぱい撮っていくうちに解ってくる」って先生が言うから、もう「先生に褒められるぞ!撮るぞ!」みたいな感じで、表情を抑えて抑えてと頑張ってみました。もうその頃すでに先生に心酔してましたから(笑)。

 

---(笑)。

 

でもね、この前の授業の時に「君、ちょっと進んだな」って言ってもらえて(笑)。

 

---おお!おめでとうございます!

 

いや~でも自分でもおぼろげにだけど、確かに解ってくるんですよね。あれこれたくさん撮っているうちに。プリントしている時に自分で、素敵な笑顔だな、いい感じに撮れたなぁ~って悦に入っちゃう写真って、時間をおいてもう一度見ると、何というか・・・。

 

---素通りできちゃう?

 

そうそう!引っかからないの。これかぁ!と(笑)。すげぇ、先生!って(笑)。

 

---(笑)。

 

うちのかみさんなんかね「中村先生に褒められるために撮ってんでしょ。」とか言うんですよ(笑)。

 

---(笑)。でも最初はやっぱり教えてもらうことを忠実に一生懸命やるのが、一番の近道だと思うんですよね。どんな勉強でも。

 

それもあるんですけどね、授業で先生から褒められたり、ダメだって言われたりする言葉が嬉しいんですよ。出し惜しみしないで、もっとちょうだいよ!って感じです(笑)。僕は言葉で把握していきたいタイプなんで、キーワードが欲しいんですよね。だから先生からぽろっと出るキーワードを手帳に書き留めて、電車の中とかでよく見たりしてるんですよ。例えばこれ「撮影者の態度が、相手の表情に出る」とかね。

 

---出ますよね!出ます。

 

出る出る。冷たい視線で人を見ちゃいけないよ、とか先生が言うでしょ。そういうのガツーンと来たりして。これって今の僕にとってすごく大事なことなんですよね。こういうキーワードを心に留めて撮っていくと、すこし前に進める。また少しいいのができる。でも最初は「こんなんでいいの?これがいいの?」って思いながら撮ってましたけど(笑)。

 

---え?それ?!意味わかんないよ!・・・みたいなね(笑)

 

そう、心の中で「え~、絶対それよりこっちがいいだろう」って(笑)。

 

---最初はみんな訳のわからないものを、訳もわからず撮らされてると思うんですよ。でも批評のときに「なぜそれがいいのか」ということを、解りやすい言葉で伝えてくれるから、みんなついて行けるんだと思うんですよね。

 

そう、それですよ。それに「刷り込まれた美意識で撮るな」という先生の話は、批評の時に「それはなぜなのか」ということが、きちんと説明されていくんです。何より職業柄たくさんの人に接してきたけど、それでも中村先生みたいにオリジナルな言葉を豊富に持っている人に会ったのは初めてですね。それに言葉が絶対にブレないから、すごく信用できる。

 

---確かに、全くブレないですね。そういうのは見たことがない。

 

だからもう、先生の言葉にやられてます(笑)。

 

---やられちゃいましたか(笑)

 

ズキューンって(笑)。

 

聞き手:木下マリ子

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